樹齢150年のシナノキから生まれる魅力的な「樹の鞄」の世界【北杜市】
みなさんは普段どんな鞄を使っていますか?
友人との食事にはお気に入りのハンドバッグ、旅行先には大容量のボストンバッグ、アウトドアには動きやすさ重視のリュックサック……。
一口に鞄といっても色々な種類がありますよね。
では樹で作った鞄は?
「樹の鞄」は、その名の通り木でできた鞄です。
言葉だけだとなかなかイメージできないかもしれません。
それもそのはず、作り手の手がける「樹の鞄」は、木の無骨なイメージからは想像もつかないような滑らかなフォルムをしており、緻密で繊細なデザインが施されたなんともお洒落な鞄です。
静かに堂々と佇むその姿は見るものを一瞬にして惹き付けます。
今回は、魅力溢れる「樹の鞄」についてご紹介します。
樹の鞄公式HPはこちら
○作者プロフィール
樹の鞄のアトリエは、自然豊かな森の中にあります。
作者の亀井さんご夫妻に案内していただき、アトリエにお邪魔させていただくと、色とりどりの個性豊かな鞄たちが出迎えてくれました。
棚を飾る沢山の樹の鞄に圧倒されつつ、インタビューを始めさせていただきました。
作者は亀井勇樹さん。大阪生まれ大阪育ち。
サラリーマンとして働いていましたが、27歳で脱サラし「樹の鞄」を立ち上げます。
現在は、北杜市大泉町の自宅兼アトリエで鞄づくりを行っており、高島屋や三越といった百貨店で展覧会を行うなど、忙しい日々を送っています。
-もともと何かを作るのが好きだったんですか?
子供の頃から物を作るのは好きでしたね。
大阪では下町に住んでいたので刃物屋さんや靴屋さんのような小さい工場がいっぱいあって。工場見学が好きで1日中工場に入り浸っているような子供でした。
-樹の鞄を作ることになったきっかけについて教えてください。
妻との結婚後は、東京でサラリーマンをしていましたが、サラリーマンが体に合わず、調子を崩して休みがちになってしまいました。
妻に心配や迷惑をかけてしまったので、何か作ってお返ししたいなと思い、樹で鞄を作ったのが第一号です。
-なぜ作ったのが鞄だったんですか?
妻を驚かせたかったからかな。昔から人を驚かせることが好きだったんです。サプライズとか。
❝樹の鞄の底の面には、様々なデザインが彫られているものが多いです。亀井さんのサプライズ精神は、樹の鞄の底のデザインにも反映されているように感じます。❞
○樹の鞄、始動。
本格的に鞄づくりをするようになったのはそこからですね。27歳で会社を辞め独立しました。ただ、はじめから食べていけるはずもなく、ホームセンターでアルバイトをしながら生計を立ててました。
そこのホームセンターは、一般的なホームセンターよりもちょっと専門的なものが置いてあるところで、働いている人も専門の免許を持っているようなプロフェッショナルな人が結構いたので、色々と学ばせてもらいました。
-若くして独立されたんですね。
普通だったら、どこかで教わりながら27歳で独立っていうのはあるかもしれないですが、僕には木工とか彫刻とかバックグラウンドが何もない。だからもう1からですよね。
そのころ作っていた鞄は横に革を貼ったタイプなんですけど、使い勝手があまりよくなかったので、試作を繰り返して今のタイプになりました。今の形に辿り着くまで2・3年はかかったかな。
素材選びにも苦労しました。木なんてほとんど何も知らなかったので、いろんな木を試してみた結果、1番良かったのがシナノキでした。
実は、たまたま偶然樹の鞄の第一号を作った木が「シナノキ」だったんです。ちょっと鳥肌ものでしたよ。
❝試行錯誤を繰り返して、選び抜いた木が、初めて作った樹の鞄と同じ木だったなんて、運命を感じますね。❞
○作り手のこだわり
-鞄づくりで重要なことはどんなことですか?
大切にしていることの1つが「下作業」です。
鞄づくりは材料となるシナノキを10年くらい寝かせるところから始まります。
湿気を吐き出して、吸って、吐き出してまた吸って。
季節を何回も体験させることによって木が落ち着いてきます。
樹の鞄の歪みや動きを抑えたいので、下作業を大切に行っています。
もう1つ大切にしていることは、「木取り」の作業です。
鞄に使用するシナノキは樹齢150年以上にもなります。せっかく何百年も生きた木を使うので、なるべく無駄にならないように木取りします。
綺麗な木目の部分を使って、かつ無駄にならないような方法を考えながら木取りをする。そのせめぎ合いが難しいですね。
その時の板によって、どういう風に木取りするか、全然変わってくるんです。だから、注文で「これと同じのをください」って言われるとすごく困るんです(笑)。
❝亀井さんの作る鞄のデザインは、四角いものや丸いもの、ちょっと個性的な形のものと鞄によってさまざま。
その理由は、割れているところや虫食いなど、デザインとして活かせないものを回避して、無駄なく木取りしているからとのこと。
ただ「作る」のではなく、自然を大切に思いながら制作している亀井さんの気持ちが素敵です。❞
○作業工程
-鞄の制作にはどれくらいの時間がかかりますか?
1個の鞄を作るのにかかる制作時間は鞄によってそれぞれです。どういう仕上げにしようか、まず悩むんですよ。パッとひらめいたら進むんですけど、ひらめかないとちょっと棚の方にいてもらう。その間にできる仕事をどんどん進めていく。で、ある時ひらめいたときに「あっ、この子はこれでいこう」って作っていくので、1個をずっと作り続けることはないんですよね。色も形も取っ手も、全部ひらめきです。
-カラーリングは、どのようにして決めているんですか?
木目が生かせる塗りにします。木目が綺麗なものは比較的薄い色で塗っています。もしくは、濃いめに塗って1年くらい置いておくと、濃淡が出て木目が綺麗に出ます。それをお客様に何年か使っていただくと、経年変化でもっと木目が綺麗に出てきます。
ほかにも色を重ねて、少し研いで、その下地をちょっと出すという技法があるんですけど、この技法は、使い込んでいくと下の地が年月と共に出てくるという楽しみ方ができます。
何かひらめいたことや、ずっとやりたいと思っていたこと、新しい技法などをスパイスとして取り入れて鞄の作成にあたっています。
一般的にざっと見たら「同じ樹の鞄だ」と思うかもしれませんが、詳しいところを見てみたりすると、塗りが全く違っていたり、手順が逆転していたり、そういう発想をいつもしています。
持つ方に「これは、私にしかない形なんだ」と思っていただきたい、という思いで作っていますね。
(奥さん)
美しい色やデザインではあるのだけれど、どうやったら人が使いやすいのか、損なうことなく長い間使ってもらうにはどうしたらいいのかを考えながら作っている、そのバランスがすごくいいと思うんです。
勢いで作った芸術作品ではなく、「使うため」というベースがちゃんとあるような気がしますね。
-鞄作りで大変だと思うことは?
大変っていうと大変なところばかりですよね(笑)。でもどんなことでも大変だと思ってやると苦になってしまうじゃないですか。大変なことも淡々とこなすとか、この大変さを乗り越えたらいいものができるとか、そういう風に切り替えることが大事。前向きに作ればプラスのエネルギーや温かさが籠ると信じているので。
❝実はデザインの勉強をしたことはないという亀井さん。デザインのモチーフは自然の中からインスピレーションを受けることが多いのだとか。確かに、樹の鞄の作品名も自然を感じさせる名前が多いですね。❞
○人との出会い
ホームセンターでバイトしていた頃は、当時の店長さんが、空き時間にホームセンターに置いてある道具を使って鞄づくりをしてもいいと言ってくれました。資金も全然なく独立して、道具もほとんど持っていなかったので、すごくよくしてくれたと思います。
鞄を作り始めた初期の頃は、デパートの展示会をしてみないかと誘われたことがありました。そのうちテレビの取材や雑誌の取材が入り、徐々に広まってくると、「今度家で展示してみない?」とか「私にも樹の鞄を作って欲しい」とか声をかけていただくようになりました。
やっぱり出会いですよね。色んな人との出会いやお客様に応援していただいて、今も変わらずに人に助けられながら制作できていると感じています。
○北杜市に移住した理由
北杜市に来たのは1999年。来たきっかけは、町田にいたんですけど、古いお家で工房っていう工房でもなかったんですよね。街の中だったんで、夜遅くまで作業できないし、どこかいいところはないかな、と思って週末になると北杜市に来たりしてました。
結構都心にもアクセスがいいし、仕事で行くにも全然行ける距離。八ヶ岳南麓に住みたいと思っていたので、ここに決めました。
○今後について
やっぱり平凡で、家族や周りの人が日々笑顔でいられたらそれが1番じゃないかなって思ったりします。
コロナが蔓延しているこんなご時世で、目標なんて立てていいのかな、と思ったりもしますが、そんな中でもやっぱり前進していかないといけないと思うんですよね。
展示会で見てもらう、ECサイトで買ってもらうとかもあるんですけど、1番はここに来て直接見てもらいたい。そこが最終目的ですね。
北杜市で活動する中で、今まであまり地元で活動することってなかったんですよ。そこはちょっと改善して。もう少し地元で何かできることはないかと模索中です。こんなにいい場所、他にないんじゃないかと思っているんで。もっと北杜市もみんなに知ってもらって、気軽に遊びに来てほしいですね。
❝「樹の鞄」は作り手の思いと技術が詰まった唯一無二の鞄でした。
日々新しいチャレンジをする亀井さんは、次々に新しい鞄を生み出します。
人との出会いに支えられながら、徐々に形となった世界でたった一つの「樹の鞄」。
ぜひアトリエに足を運んでみてはいかがですか?❞
北杜市ふるさと納税では、樹の鞄を返礼品としてお取り扱いしています。鞄以外に小物のご用意もございます。この機会にサイトを覗いてみてはいかがですか?素敵な出会いが待っているかもしれませんよ!
【執筆】ふるさと納税担当 植松